妬心に溺れて




非番の日。

俺は忙しそうにしている副長の手伝いをしようと進言してみたのだが。
非番の日ぐらいは休めと言われてしまい、何をしてよいかわからず暇を持て余していた。

「仕方がない……少し散歩でもするか……」

そう思い、一人でふらりと屯所の外へと出かけて行く。

俺は特に目的があるわけでもなく、気の向くままに歩を進めて京の町を歩いた。

巡察の時とは違って三番組の隊士たちはいない。
途中で茶店に寄り道しようと境内で休憩しようと誰にも咎められる事はないのである。



たまにはこういう時間も悪くはない。

一人でのんびりと外の空気を感じて歩く。
ただそれだけの時間。



ふと町中を歩いていると、俺の目に団子屋が見えた。



―――ああ、総司が好きそうだな。



そんな事を考えてしまう。

何故一人で散歩をしている最中に総司の事を考えなければならないのだ?
と自問してみるが。
愚問であった。

理由などわかっている。

俺は総司が好きだからだ。

しかしそのような事を本人に言った事は一度もなかった。

男が男に恋をするなどおかしいと笑われてしまう。
受け入れてなどもらえないと思った。
だから俺はこの想いを告げずにいるのである。

ただそばにいられればいい。

今まで通り。



そんな事を考えながら、無意識の内に団子屋の前で足を止めてしまった。

「兄ちゃん、どうだいお土産に一つ」
「……ああ、いや俺は……」

ただの散歩で出て来ただけなので何かを買うつもりなどなかったのだが……

「彼女に甘い物を贈ると喜ばれるんじゃないかい?」

などと言われてしまう。

「俺には別に彼女などいないが……」

そう言って慌てふためく。

彼女と聞いて男である総司の姿を思い浮かべてしまったからだ。
付き合っているわけでもないのに……

俺は勝手に総司に邪な想いを抱いているのだ。
それが恥ずかしくて頬を染めてしまう。

だが確かに総司に土産を買って帰ったら喜ばれるだろうと思った。
思ってしまったからついその団子屋で買い物をしてしまった。

一人分にしては買いすぎてしまった団子を手に俺はため息を漏らす。

二人で食べようと誘えば一緒にいる口実に出来ると思ったのだ。
自分で何と浅はかな考えだろうと思う。



俺は買い込んだ団子を見つめながら屯所へと戻る道を歩いて行く。

確か総司も今日は非番のはずだ。
暇を持て余しているようなら一緒に団子を食べる誘いも喜ばれるであろう。

そう思っていた。

だが屯所へと戻る前に、とある寺の境内から声が聞こえて立ち止まる。

「総司ぃ〜!」
「こっちだよ〜!」
「見て見て、私のお姉ちゃん綺麗でしょ?」

数人の子どもたちに囲まれている総司の姿が俺の目に入った。

そして子どもたちが総司に紹介している一人の女性を見た。
年は二十歳前後、美しい着物を纏い、身なりを整えた顔立ちのよい女であった。

「へえ、君のお姉さんはすごく美人さんなんだね。きっと君も大きくなったら美人になるんじゃないかな?」
「えへへ」
「もうやめてよ恥ずかしい……」

自分の姉を褒められて嬉しそうな子どもと、総司に視線を注がれている事に恥ずかしそうな顔で俯く女性。

しかし俯きながらも時折ちらちらと総司を見遣るその姿はまるで。
恋をする乙女のような仕草だった。

「…………」

俺は思わず無言で女性を遠くから睨んでしまった。

「あ、あの……総司さん。よかったらこれを……」
「え?僕に?」

女性はおろおろしながらも手に持っていた美しい染物の袋を総司に渡してそう言った。
総司は何だろうと小首を傾げながらそれを受け取って中身を覗く。

「お団子……?」
「はい。総司さんがお好きだと聞いていたので」
「わざわざありがとう」
「いえそんな……」

頬を赤らめながら、団子を渡せた事に満足そうな女性の顔が腹立たしくなってしまう。

俺は自分の買った団子の包みを握り締めながらその場から逃げるように去って行ったのだった。



屯所に戻ると自分の部屋に買って来た団子を投げ捨てるように置いた。

「はあ……」

大きくため息をつくとそのまま座り込む。

まったく俺は何をやっているのだろうか?

いつも島原に繰り出す三人組と違って総司は色町に出て遊び歩く事はほとんどない。
しかし、普通の町中を歩けば女性の目を引く事も多い。
子どもたちと遊んでばかりで子どもに人気があるという認識をされがちであるが……
総司は子どもだけでなく普通に大人の女にももてるのだ。
本人にその自覚があるかどうかはわからんが……

先程見た女性は明らかに総司に好意を持っている。

それが何だか気に入らない。

しかし、二人が並んだ情景は悔しいが似合いであった。
美男美女が並んでいて……
あの場に俺が入り込む事が無粋な気がした。

総司の隣に自分の居場所などないのかもしれない。

総司が誰に恋をしようと誰と一緒にいようと、俺に口出し出来る問題ではないだろう。

所詮俺の想いなど片恋だ。

いつまでも悩んでいたって仕方がない事だ。
わかっているだろう。
俺の想いなど叶うはずもないのだから。

そう頭であれこれ考えている内に陽は大分傾いていて。

部屋の外の廊下から足音が聞こえて来た。
その足音が誰のものかすぐにわかってしまうのは彼の足音が独特のものだからか、それとも愛ゆえなのか。

総司が帰って来たのだろう。

そう思って思わず障子戸を開ければ見事に御対面という形になる。

「あれ?斎藤君どうしたの?」
「……いや……その」

総司の顔がまともに見られず俯いてしまう。
会いたいと思ったから咄嗟に戸を開けてしまったというのにいざ対面すると怖気づいてしまったかのようで情けない。
どうせ総司とは同室なのだからわざわざ俺が戸を開ける必要はなかったはずなのに。

「そういえば今日斎藤君も非番だったんだよね?何してたの?僕少しだけ斎藤君の姿見たんだけど、声かけてくれなかったから寂しかったかな」
「ああ……それはすまない。邪魔をしては悪いと思ってな」
「邪魔?どういう事?」
「……いや、何でもない……」
「?」

俺の言っている意味がわからないといった風な顔をして総司はこちらを見る。
俺は静かに総司の手に持っている綺麗な袋をじっと見つめていた。
その視線に気づいた総司はその袋を掲げて俺の目の前に差し出した。

「ああこれは近所の人に貰ったんだ。お団子みたいだけど斎藤君も食べる?」

そう言って無邪気に笑って袋の中身を取り出す。

「ほら美味しそうでしょ。手作りだって言ってたよ」

総司は俺の返事を聞かずに団子を一つ俺へと差し出して来た。

「俺はいらん!」

差し出された団子を見て先程総司に色目を使っていた女性の姿が思い浮かんでしまう。
自分ではどうにも出来ないどす黒い感情が不意に渦巻いて、思わず差し出された団子を払いのけてしまった。

「あっ……」

総司の手をぱしりと振り払った勢いで、差し出された団子は床へと落ちた。

はっとして俺は落ちた団子と総司の顔を交互に見つめた。

俺の突然の行動におろおろしているように見える。
無意識とはいえ悪い事をしてしまったと反省するが、後悔した所で既にしてしまった事は取り消せやしない。

「……すまない……少し気分が悪くてつい……」

そう言って謝るが、総司は無言だった。
怒らせてしまったのだろうか?
と不安になりもう一度総司の顔を覗き込んだ。

だが総司は怒っているというよりも寂しそうな顔でこちらを見ていた。

「ごめんね。気分が悪いなら休んだ方がいいよ」

そう言って総司はこの場を去って行った。

俺は何と愚かな男だろうか。
好きな者の手を払いのけてしまうなど……
そして悲しい顔をさせてしまうなど……

俺は再びため息をついてしまう。

自分の買って来た団子の包みをじっと見つめて。
総司の足音が聞こえなくなるまでその音に聞き耳を立てていた。

やがて総司の気配が消えて。
静寂が辺りを支配する。

俺は団子の入った包みを手に取って部屋を出た。

このまま捨ててしまうのも勿体ない。
ならば……

そう思い向かったのは、今も仕事に追われているであろう副長の部屋だった。



「何だ?斎藤……」

部屋に足を運べば副長の声が聞こえて自然と身が引き締まる。

「今日はゆっくり休めたか?いつも働いてばっかりだからなお前は」

副長は俺がやって来ると筆を止め俺の方を振り向いた。

「はい。お心遣い感謝します」
「相変わらず堅苦しいな。非番の日くらいもっと気楽にしてろよ」
「はあ……」

副長にそんな心配をされる程俺は無理をしているように見えるのだろうか?
本当にまだまだ未熟だと思う。

「で、俺に何か用があんのか?」

そう問われて一瞬戸惑った。
しかし一呼吸置いて。
俺は持って来た団子を差し出した。

「副長もお疲れだと思いまして……」
「何だ、団子じゃねえか。どうした急に?」
「疲れには甘いものがよいと聞きますので、副長に食べてもらおうと思い買って来ました」

副長は差し出された団子を見つめて何事かを考えているような仕草を見せられた。
そして。

「斎藤。本当に俺のために買って来たのか?」

と確認される。

俺が副長に団子を買って来る事がそんなに珍しいだろうか?
などと思いつつも静かに頷いて「はい」と答える。

「そうか。ありがとな斎藤」

副長は特に俺を疑う事もなく笑みを浮かべて礼を言って下さったので俺もほっと胸を撫で下ろした。

「今お茶をお持ちします」

そう言って俺は立ち上がる。
副長の部屋を出て茶を入れに向かう途中、再び総司と出会った。

「あれ?斎藤君、具合はもういいの?」

縁側で局長と二人並んで座り、先程貰って来た団子を頬張っているようだ。
もしあの時差し出された団子を手に取っていれば、今総司の隣に座っていたのは俺かもしれないと考えてしまう。
局長を恨んでいるわけではない。
悪いのは総司の手を払いのけてしまった俺自身だ。

「ああ、少し茶を飲んで落ち着こうと思っていた所だ」
「そう?無理しないでね。斎藤君真面目だからさ」
「心配は無用だ」

俺は早足でその場を通り過ぎる。

鼓動が速くなるのを抑えられず茶を淹れている間もほとんど集中出来ずにいた。
震える手で何とか用意を終えるとそれを持って再び副長室へと戻る。
また局長と総司が並んで座っている場所を通過しなくてはならないのだと考えると気が重くなるのだが。
しかし副長をあまり待たせるわけにもいかず、歩を進めた。

「あれ?斎藤君何処行くの?そのお茶……二人分って事は……もしかして土方さんの所にでも行くの?具合が悪いのにわざわざ土方さんの世話なんてしなくていいのに……」

やはり声を掛けられてしまった。

「斎藤君。無理はいかんぞ。何なら俺がトシに茶を持って行くが?」

まさか局長にまでそんな事を言われてしまう。

総司の手を振り払ってしまった理由を具合が悪いからだと言ってしまったのは確かに自分であるが……
体調は特に問題ないのにそんな心配をされるのも心苦しくて仕方がない。

「いえ問題ありません。少し動き回った方が気分も落ち着きますので……失礼します」

俺は適当な事を言ってその場を後にした。



「副長、お茶をお持ちしました」

そう言って副長の部屋の戸を開ける。
相変わらず忙しそうに筆を進めていたが、俺が入室するとすぐに手を止めた。

「ああすまねえな」

そう言って筆を置くと、文机から離れて二枚の座布団を敷き座り込む。
俺は副長と向かい合う形で開いている方の座布団に腰を下ろす。

「どうぞ」

持って来た淹れたての茶を二つの湯のみに注ぐと俺は片方を副長へと差し出した。
それと一緒に買って来た団子を広げる。

本来ならば総司と一緒に食べるはずだった。
そのために買って来た団子だ。

けれどもうこれを総司に渡す気にもなれなくて俺は副長のために買って来たなどと嘘をついてしまった。

それでも捨てるよりはいいだろうと、一つ己の口へと運べば甘いはずの団子が苦く感じてしまう。

本日何度目かのため息をついて俺は茶を啜る。
すると……

「ぶはっ!」
「おい斎藤大丈夫か!?」

思わず咳き込んでしまった。
熱い茶をいきなり口に含んでしまったせいもある。
しかし。
気も漫ろに淹れた茶は渋みが強すぎて美味しいと言えるものではなかったのだ。

「も、申し訳ありません……」
「おい斎藤。今日のお前、何かおかしくないか?出かけた先で何かあったんじゃないのか?」

副長にいらぬ心配までされてしまい、俺は俯いた。

「いえ、大丈夫です。茶を淹れ直してきますので……」

そう言って俺は立ち上がるが。

「いや。それは後で他の奴にでも頼むからいい。お前は調子が悪いみてえだから少し休め」

心配されてしまって部屋を追い出されてしまった。

仕方がない。
夕餉の時間がもうすぐだがそれまでは部屋で大人しくしていようと引き下がる。

廊下を歩いて己の部屋へと向かった。
先程まで縁側で団子を食べていた局長と総司の姿はもうなく、その場所はがらんとしていた。

今の俺が総司の姿を目にすれば心を乱すだけなので安心する。

夕餉の時間までには心を落ち着けなければと部屋へと入る。
一人で瞑想でもすれば邪念も打ち払えるだろうと思っていた。

だが部屋に入るなり俺の心は乱されてしまう。
部屋には総司がいたからだ。

縁側にいないと思ったら部屋に戻っていたのか……

「あ、斎藤君お帰り」

総司は俺の方を振り返って笑みを浮かべた。
その手には俺が買って来た団子が一つ。

「……総司?その団子は……?」

一体どうして総司が俺の買って来た団子を食べているのだろうか?

俺は確かに総司にやるために団子を買って来たが、結局渡せずに副長に差し上げてしまったはずだ。

同じ店で誰かが買って来たものだろうか?

「ああこれは……土方さんの部屋に行ったらくれたんだ」
「副長の部屋で?いつの間に……?」
「斎藤君がお茶を淹れに行った時かな。近藤さんが土方さんにも団子をあげたらどうかって言ったから仕方なくお裾わけしに行ったんだ。そしたら土方さんの部屋にも団子がいっぱいあってさ。じゃあ交換して味見しようって事になって僕の貰ったお団子と土方さんのとで交換したんだよ」
「…………」

まさかそんな経緯で俺の買って来た団子が総司の手に渡るとは思いもよらなかった。

「この団子も美味しいね。今流行りのお店のかな?ずっと気になってたから食べられて嬉しいよ。斎藤君は気分が悪くて食べられないんだっけ?勿体ないなあ……」

総司が美味しそうに俺の買って来た団子を口にしている。

一気に俺の心はかき乱されて、気づけば総司の身体を壁に押さえつけていた。

「ちょっ!?けほけほっ……」

突然の俺の行為に驚き咳き込む総司。

「苦しい、よ……詰まるぅ……」

団子を食べている最中にこんな事をされては喉を詰まらせてもおかしくはないだろう。

「ああ……すまない……」

ついかっとなってしまった俺は押さえつけてしまった腕の力を緩め、慌てて総司の背をさする。

「今日の斎藤君変だよ……」

むせ返りながら総司が呟く。

「どうしちゃったのさ?」

そんな事を問われて今日の出来事が頭の中を駆け巡った。



今の関係を壊したくなどない。

だからこの想いも告げずにずっと、ただ新選組の一員として、幹部として、同志として共にあれればいいと。

そう思っていた。

拒絶される事が恐いと思う俺は臆病なのだろうか?

それでもこのままの関係でいたらいずれ誰かに先を越されて奪われてしまいそうで。
それも恐かった。



ならば俺はどうすればよいのだろうか?



「総司……お前は……誰か心に想う者がいるか?」
「……え?」

咳が落ち着いた頃。
俺は総司と向き合って静かに問いかける。

総司は何故急にそんな事を聞くのかわからず目を瞬かせた。

「斎藤君?どうしたのさ?本当に今日はおかしいよ?」



ああそうだ。
俺はどうかしている。
だが決して今日に限った事ではない。

たまたま今日は感情が抑えきれないだけだ。

とっくの昔から俺はおかしくなっている。
総司のせいでだ。



「恋人はいるのか?と聞いている。質問に答えろ」

強い口調で二度目の問いかけをする。
俺は鋭い眼差しで射抜くように総司を見た。

「……別にいないけど……?」

おどおどとした口調で返された答えに俺は満足して笑みを浮かべる。

もしここで“いる”などと答えられたらそれこそどん底に突き落とされていたに違いない。

「そうか。ならば……」

俺は深呼吸して総司の腕を掴むと。
そのまま身体を押し倒して総司の上に乗っかった。

「へ?」

何が起こっているのかわからず、総司が目をぱちくりとさせていたが。
構いはしない。

「……さ、斎藤君?」

何をされるのかがわからずに不安げな瞳を向けて来るその様子がおかしかった。
普段は何事にも動じず冗談を言って人をからかってばかりの男が今この俺に押し倒されて困惑している姿は滅多に見られるものではなかろう。

そのまま口づけてやれば驚愕し、目を見開く。

その反応がまた楽しくて。
俺は更に口内に舌を侵入させると中を荒らすように弄る。

「んんっ!?」

わけがわからず総司はもがいたが、畳の上に押し付けるように俺が乗っかっていては簡単には逃れられないようでそうこうしている内に舌を絡められていた。

抵抗が弱くなってきた頃を見計らって俺は総司の腰紐を解く。

徐々に着物を乱されている事にも気づけない程、俺の口づけに戸惑っている総司は簡単に素肌を見せてくれた。
直接肌に手を触れれば流石に驚いて身体を震わせる。

「……やっ……さ、いと…君……何……でっ!?」

重ねた唇を離すと途切れ途切れの言葉が漏れてきて。
荒く息を吐くその様子が俺の性欲を膨らませていった。

ここまでしてしまったのだ。
今更己の想いを隠した所でもう意味はないだろう。

「俺はお前が好きだ」

とうとう俺は告げてしまっていた。
ずっと秘めていた恋心を。

予想していなかったであろう俺の言葉に総司は怪訝な顔を見せた。
真意を探ろうと、動揺を見せつつも俺の瞳を見つめている。

「へえ……斎藤君でも……冗談なんて言ったりするんだ?」

どうやら総司は俺の言葉を冗談だと判断したようだ。
今の俺の眼は偽りを語っている眼に見えるというのか?
俺は本気だというのに。

真剣な眼差しを向けていたつもりだったのだが……

「……何ゆえ冗談だと?」
「だって……斎藤君、君自分で何言ったかわかってる?まるで愛の告白みたいじゃない?ありえないよね?」

口づけしてなお且つ、着物を脱がせて更にその先へと進もうとしている俺の行動が冗談だなどとどうして思えるだろうか?

俺はこのような事を冗談や遊び半分で行えるような遊び人ではないつもりだ。

総司だってそんな事は承知しているだろう。
ずっと共に過ごして来たのだから。
総司本人が俺は真面目だと言っていた。

ならばおそらく総司はわかっているはずだ。
俺が真剣である事を。

それでも認められずにいるのは、俺の言動が信じられないような内容だったからだろう。
起こっている事実に頭の思考が追いついて来ないのだ。

「俺はお前に愛の告白をしているのだが?」

そう告げて。

「信じられないのならば、信じさせてやるまでだ」

俺は総司の身体の上に乗ったまま己の着物を脱ぎ始める。

「……ちょっ!?ま、待って!……何する気なの斎藤君!?」

そんな俺の行動に嫌な汗をかいて慌てふためく総司の姿が可愛らしかった。

「言葉で信じられぬのなら、行動で示すのがよいだろう?」
「……え?え?……えぇっ!?」



ただ俺はそばにいられればいいと思っていた。
ずっと今の関係を壊したくないと。

だからこの想いは永遠に秘めておこうと。
そう思っていたのだが。

いつか総司に好きな人が出来て。
その者に総司を奪われて。
今のように共にいられなくなる事が恐くなった。

誰かに奪われてしまうくらいなら。
嫌われても構わないから。
自分で奪ってやろうと思ってしまったのだ。



「たとえお前が拒んだとしても……もう俺はお前を離してはやれない……」



そして俺と総司は一線を越える。

後にはもう戻れない。
戻るつもりもない。

ただ俺は。
この恋に溺れてゆくのみ―――





Fin.





去年書いた初の斎沖SSよりも話の内容的には前の出来事。
とりあえず馴れ染め話でも書こうかと思って書き出したはいいですが……
ちゃんと結ばれるとこまで行ったのか微妙……
相変わらずの駄目っぷりで申し訳ないです。
しかも危うく裏に突入しそうな勢い……(苦笑)