仲間のいる場所






僕は自分が嫌いだ……





先代の龍神の神子が滅びへと向かっていた京を救った……
その時に神子が祈ったのはたくさんの人の幸せだったという。
今まで京を見守ってきた応龍は、その神子の願いを聞き、京以外の、可能な限りの世界の人々を見守る事を約束した。

こうして多くの人々が生きるこの世界を応龍は長年見守り続けていた。

しかし平和な時は永遠に続くものではなかった。



……それらは僕自身の手によって壊されてしまったから……



僕が応龍の加護を奪った……。

応龍の加護を得て繁栄する平家を憎んでいたから……
その力を削ぐため……
龍神の力を断つ呪いをかけてしまった。



今、それらを悔いてもどうにもならない。

既に僕のした事のせいでこの世界は荒れ、多くの人々を苦しめてしまったのだから。



僕のした事は何て罪深い事なのだろう……
決して許される事ではない……

こんな自分を好きになれというのは無理な話だ。



それなのに……

それなのにどうして……



**********



「お前本当にあの弁慶か?全然イメージ違うぜ」
「……どういう意味ですか?」
「だって俺たちの世界の弁慶っていったら大男でさ……もっと怖そうな感じ?」
「は?」
「いや、だからさ〜俺たちの世界の弁慶よりもこっちの世界の……あんたの方が華奢な体つきで美人でいいな〜と」
「……美人って……あの、将臣君……僕は男なんですけど?」
「まあまあ。褒めてるんだからいいじゃねぇか」
「褒めてるんですかそれ?」
「ああ。ついでに俺の彼女にならねぇか?」
「……だから……言っているでしょう?僕は男だって……」






「弁慶」
「どうしたんです?」
「いや……いつもいつもすまないと思って……」
「え?」
「俺はいつもお前に助けられてばかりだ。お前がいたから俺はここにいられる。こうして兄上のために戦う事が出来るんだ」
「……ここまで来られたのは君の力ですよ。別に僕なんていなくても……君はきっと戦っていけます」
「違う。お前の軍師としての力もそうだが……何よりお前がそばにいて俺を支えてくれる事が、俺の心の拠所なんだ」
「九郎……」
「感謝している。ありがとう、弁慶」





「……まさか神子姫様の八葉に選ばれるなんてね。……しかもあんたと一緒で、よりによって同じ朱雀とはねぇ……」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか。まあ僕は君に嫌われても仕方のない人間ですけど……」
「……はぁ……何でそういう風にしか考えられないんだい?」
「ヒノエ?」
「オレは別に嫌いだなんて一言も言ってないだろ?」
「……確かにそうかもしれませんが……でも嫌いでしょう?僕なんて……」
「……ああ嫌いだね。そういう考え方しかしないあんたは」
「ふふっ……やはり君には嫌われているみたいですね」
「……だから……何でそういう風に捉えるんだよ?もっと逆の意味で考えられないわけ?」
「え?」





「兄さんも言っていたけれど……やっぱり俺たちの世界の弁慶さんとは全然違いますね」
「はい?」
「だって力比べして俺でも勝てるなんて……」
「……」
「何だか守ってあげたくなるタイプですよね」
「僕、そんなに弱いですか?」
「いえ……俺たちの世界にいれば十分強い方ですよきっと。ただここは戦ばかりの世界ですから……」
「……僕ももっと鍛錬が必要という事ですか?」
「すみません……そういう意味で言ったんじゃないんです。一人で無理をせずもっと俺たちを頼って欲しいなって思っただけなんですよ」
「譲君……」





「オレは君が思う程優しい人間じゃないんだ」
「景時?」
「オレの手は汚れている……オレは汚い人間なんだよ……」
「……君が汚れているというのなら僕はそれ以上に穢れてしまってますよ」
「……弁慶?」
「僕はたくさんの罪を犯してきた……僕のせいでたくさんの人を傷つけてしまった……この戦も元々は僕が……」
「……」
「君がこの戦で心を痛めているのなら僕の犯した罪の犠牲者の一人ですよ……」
「……オレは別にこの戦いが君のせいだなんて思ってないよ。オレの手が汚れてしまったのはオレ自身の責任だ……。君が心を痛める事じゃない。そう……これはオレ自身の罪だ……」





「あまり私に近寄らないでほしい……」
「……そうですか……わかりました……」
「……す、すみません……」
「いえ……僕は嫌われて当然の人間ですから」
「……え?……あ……いや……違うのです……」
「敦盛君?」
「私は穢れているのです。……だから私に近づいて弁慶殿が穢れてしまってはいけないと思って……」
「……それは僕のためという事ですか?」
「……はい……だから決して弁慶殿を嫌っているわけではないのです。寧ろ大切な方だからこそ、近づいてほしくないのです」
「……僕は大丈夫ですよ……。だって僕は既に穢れているのだから……」
「……弁慶殿?何を言うのです?……あなたはとても綺麗な方です……。私とは違う……」





「お前の選ぶ運命は本当にその道でよいのか?」
「え?」
「あまり一人で思いつめてはいけない」
「リズ先生……どうして……?」
「私はお前がこれからしようとしている事を知っている……。だが……お前が犠牲になる事を誰も望んではいない」
「な!?」
「お前の運命を選び、決めるのはお前自身だ。だからお前の選んだ道を私が否定する事は出来ない。しかし……運命を選ぶ前に助言する事なら出来る」
「……」
「お前を必要としている者たちの事を……もっとよく考えてみなさい……」
「……っ!?僕なんて誰も必要となんてしていませんよ……」
「本当にそう思うのか?……もっとよく周りを見る事だ。それに……少なくとも私はお前を必要な存在だと思っているぞ」



**********



どうしてだろう……?

みんなは僕を嫌うどころか、好いてくれている。

こんな罪深い僕を……



だから時々勘違いしてしまう。

僕はここにいてもいいんじゃないかと……

みんなと共にいつまでも……
この暖かい場所に……

許されない事だとわかっているのに……



「弁慶さん!」
「望美さん?」
「よかった……」
「どうかしましたか?」
「……だって弁慶さん……何だか消えてしまいそうだったから……」
「え?」
「ほら……この間降り積もった雪が……もうこんなに溶けてしまって……」
「……ああ……そういえばたくさん降りましたね……雪……」
「そうだよ!あんなにたくさん降ったのに、もうほとんど溶けて消えちゃったんですよ!」
「ふふっ……望美さんは雪が溶けてしまうのが寂しいのですか?」
「……そうじゃなくて……何だか弁慶さんがこの雪みたいに消えていなくなっちゃう気がして……」
「……僕はここにいますよ?」
「……そうですけど……何だか遠くへ行ってしまいそうで怖いんです」
「……」



白龍の神子……

僕が力を奪った応龍の陽の半身……
白龍によって選ばれた龍神の神子。

彼女は時々不思議な事を言う。

物事をすべて見透かしたような……
まるでこれから何が起こるのかすべてを知っているかのような……
不思議な言動をとる……

リズ先生にも似たような事が言えるのだが……



「弁慶さん!一人で苦しまないで……楽しい事はもちろん、辛い事や悲しい事も全部、みんなで一緒に分け合いましょう!だってみんな弁慶さんの事が好きなんだもの!きっとみんな力になってくれますよ!」



ああ……
どうして僕はこんなにも自分が嫌いなのに……
なぜみんなはこんな僕の事を好きだと言ってくれるのだろう?



「みんなで一緒に戦って、この戦いを終わらせて、みんなで平和な世界を作りましょう!」



みんなの優しさが理解出来ない……



「……戦いが終わった時に誰一人欠けていてはいけないんです!みんなが一緒でないと!弁慶さんももちろん一緒でないと嫌ですからね?」



けれど……
僕はみんなのこの温かさに救われているような気がしてならない……

自分自身に重くのしかかってくるものが、みんなの一言一言で少し軽くなっていくような……
そんな感覚が度々あって……

それが苦しくも嬉しい……



許されるのなら……
少しだけ願ってもよいだろうか?



みんなと共にいる事を……

この仲間のいる場所に僕がいる事を……





Fin.





弁慶さんお誕生日に何か書こうと思い……
総受気味で一本……
まあ短時間で思いつきのように書き上げたものなんで微妙な小説かもしれませんが……
お誕生日おめでとうございますって事で☆