本気の恋





翡翠がいつものように木の上でのんびりしていた時だ。

見覚えのある人物を発見した。

他の人よりも色素の薄い肌や髪の色が大勢の人ごみの中でも目立っていた。
隣に真っ赤で燃えるような色の長髪男がいればさらに目立つ。



今まで何かに心を奪われ執着したりした事はなかった翡翠だったが、この京に神子が現れ、八葉に選ばれてからというもの翡翠の中で何かが大きく変わろうとしていた。

人生は遊びだ……
適当に日々を楽しみ、物事を気楽に考え、あまり悩まず、固執せず、何かに熱中する事もなく生きる。
それが翡翠の今までの生き方だった。

しかし今目に映る人物と出会い、少しずつではあるがその者に惹かれ始めている事に気づいていた。

翡翠にとって女遊びは日常茶飯事の事。
美しい女性は見慣れているし、今更どんな人物に熱を上げるというのか……

おかしな話だ。
女好きであると自覚していた翡翠が心を動かされた相手は男なのだから。



「やれやれ……私は一体どうしてしまったのかな?」

自分自身で嘲笑する。

「東宮である彰紋様の事がこんなに気になるとは……」

色素の薄いその肌や髪は、鬼のようで不吉だと言う者もいるというが翡翠はその色がとても綺麗だと最近感じるようになっていた。

「しかも……彰紋様の隣に他の男がいるというのがこんなに不快だとは……」

翡翠は一人呟きながら今まで見ていた人物から視線を逸らし上を見上げた。
深い緑色の木の葉が微風でわずかばかり揺れている。

「イサトに嫉妬するとは……私は本当にどうしてしまったのだろうね……」





Fin.





携帯サイトの拍手お礼SSで過去に書いたものです。