悪戯
「Trick or treat !」
去年のハロウィン当日、放課後いつもの仕事を終えて帰って来てみれば。
千尋と風早がうきうきしながらパーティの準備をしていた。
毎回毎回行事のあるごとに騒ぎたてる二人に思わず呆れてしまう。
まあ二人だけで楽しんでいるのならそれ程文句は言わないのだけれど……
僕まで巻き込まないでほしい。
家に帰ってくるなり玄関先で風早がにこにこしながら出迎えたかと思えばこれだ。
あの第一声。
ハロウィンではお馴染みのセリフ。
お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞという意味らしいが。
生憎と僕はハロウィンなどまったく興味がなかったため、人にあげられるようなお菓子は用意などしていない。
「おや、何も用意してないんですか?じゃあ悪戯で決定ですね」
笑顔でそう言われて言葉を失う。
本当に去年は散々だった。
だから今年は去年の二の舞にならぬようきちんとお菓子を用意した。
千尋もこういった行事は好きだろうと思ったのできっちり二人分。
これで余計な悪戯をされる事もないだろう。
そう安心して家へと帰った。
予想通り。
二人で毎年の如く部屋を飾りつけ、楽しそうにハロウィンの準備をしていた。
やはりお菓子を用意して正解だったと思った。
僕が帰ってきた事に気づき、千尋がぱたぱたと足音を鳴らしながら玄関へとやって来る。
「おかえり那岐、Trick or treat !」
まるで子どものようなはしゃぎっぷりで両手を差し出してくる千尋。
そんな千尋の手に用意していたお菓子をぽんと置いてやる。
「あれ、那岐珍しい。ちゃんと用意してたなんて」
「去年散々だったからね」
「ちぇ、せっかくまた悪戯しようと思ってたのにぃ」
「残念だったね」
そんなやり取りをしながら居間へと向かう。
千尋が夕飯の支度をするためキッチンへと姿を消した頃、今度は風早が笑顔でこちらに近づいてきた。
ほら来た。
でも今年は大丈夫だ。
ちゃんとお菓子は用意してあるのだから。
風早がうきうきしながら口を開く。
いい大人がまるで子どものようだ。
「那岐、Trick or trick !」
はいはい、そんな嬉しそうな顔をしている所悪いけど。
今お菓子を渡すから……
って……
はい?
今こいつ何て言った?
聞き間違い?
そうだよな、そうに違いない。
Trick と treat って似てるもんな。
「ほら那岐、Trick or trick !」
聞き間違いじゃなかった。
こいつ何言ってんだ!?
「はあ!?」
「おや?どうしたんです?」
「どうしたんですじゃないだろ!何わけのわからない事言ってんだよ!?」
「だって今日はハロウィンでしょ?那岐に悪戯できる日じゃないか」
「ふざけるな!ハロウィンはそういう行事じゃないだろ!」
「おや違うんですか?」
「全然違うから……」
「でも Trick or treat ! って言ったって同じだと思うよ?」
「何が!?」
「だって treat って楽しみとか喜びって意味でしょ?俺にとっての楽しみは那岐に悪戯する事だから…ね?変わらないでしょ?」
何それ!?
こいつハロウィンの解釈おかしいだろ!?
もう悪戯する気満々じゃん!
人がせっかくお菓子を用意してやったというのに……
「俺はお菓子より那岐自身を貰えた方が嬉しいですから」
そんな事を満面の笑顔で言われてしまう。
何この展開……
結局去年と同じ道を辿るのか……
というかこれってハロウィンの日には毎年必ずこうなるって事なんじゃ……?
勘弁してほしい……
Fin.
以前ブログに投下したハロウィン小話。
|