眠る君に…… 「何度言えばわかる」 今まで太陽の光に明るく照らされて、ぽかぽかと暖かい空気に包まれていたというのに。 その声はとても冷たくて…… 一気に心地よかった空気の温度を下げて行った。 この空を飛ぶ不思議な船に興味津津で探検をしていたが、この船で外の空気に触れる事のできるこの場所、堅庭で気持ちの良い風に吹かれていたら忍人さんにばったり出くわしたのはつい先程の事。 そこで一人で出歩いている事に散々お小言を言われてしまった。 そんな出来事を思い出し苦笑いしてしまう。 さっき怒られたばかりだというのに…… またやってしまった。 あまりにもお日様の光が心地よくて…… いつの間にか睡魔に襲われてしまっていたようで。 私はどうやら堅庭で居眠りをしてしまったらしい。 忍人さんと出会った時、私は水浴び最中で、武器を手放していた。 そんな私の軽率な行動に注意を受けてしまった。 裸を見られた私が何故怒られなければならないのかとも思ったし、今でも思い出すと恥ずかしい。 しかし忍人さんは私との出会いのあの場面を何とも思ってはいないようだ。 それはそれで何だか失礼な気もするけれど、忍人さんが相手ならばそれも仕方がないと溜息をつく。 私は忍人さんに怒られてばかりだ……。 またこんな所で居眠りしてしまった私にお説教の嵐が降り注ぐ事は、眠っていた私に掛けられた冷たい言葉が物語っている。 予想通り、忍人さんはこんな所で無防備に一人眠りこけていた私を叱り始め…… どれだけ時間が経っただろう？ 温かく周りを照らしていた太陽が傾き始め、徐々に辺りが暗くなり出した。 「はあ……」 忍人さんがお小言を言い終わって溜息を吐いた。 溜息を吐きたいのは私も同じなのだけれどそんな事をしたら忍人さんに睨まれてしまいそうだったので何とか押し止める。 「もうこんな時間か……そろそろ中へ戻るぞ」 「は、はい」 もうとにかくこの忍人さんの説教から逃れられるのなら早い方がいいと素直に従う。 とその時だった。 「ん？」 忍人さんが何かに気づいて振り返る。 何を見つけたのかはわからないけれどその視線は一点をじっと見つめているようで…… 「どうしたんですか？」 そう聞けば、 「那岐…？」 よく知った名前が呟かれたので驚いた。 「え？」 忍人さんはその視線の先へと歩き出し、私は陰に隠れて何も見えないその場所を首を傾げて見つめた。 気になり少し遅れて私もその場所へと近づく。 するとそこには私と同じように無防備に居眠りをしている那岐の姿があった。 ずっとこの堅庭にいたが全然気付かなかった。 きっと私は相当深い眠りに落ちていたんだろう。 忍人さんに怒られても仕方ないのかもしれない。 けれど那岐だって同じだ。 これだけ忍人さんのお説教が飛び交っている中、しかも今これだけ近くに二人の人間が近づいても起きる気配がないのだから。 相当深い眠りに落ちているのだろう。 むしろ私なんかより那岐の方がやたらと色んな場所で眠ってしまうのだから軽率すぎるのではないだろうか。 忍人さんに見られてしまったのが運のつき。 きっと怒られる。 忍人さんは誰に対しても厳しい人だから。 那岐のような人間とは相性もよくなさそう。 少し那岐が心配になる。 忍人さんも少し抑えてくれればいいんだけど…… そんな風に思っていた。 けれど、そんな心配をしていた私は一体何だったのだろう？ 忍人さんが私に向けていた厳しい顔つきをがらりと変えた時には驚いてしまった。 刺々しくて冷たい眼差し。 そんなイメージしかなかった忍人さんの表情がとても穏やかで柔らかい雰囲気を纏い出したのだ。 思わず目を見開いて固まる。 「こんな所で寝ては風邪をひく」 その優しそうな顔のまま小さく呟きそっと手を伸ばす。 寝ている那岐の身体に。 静かに。 そうしてゆっくりと那岐の背と膝裏に腕を回して。 ゆっくりと抱き上げる。 え？え？え？ 何この状況は！？ てっきり私同様、無防備にこんな場所で寝顔を晒している那岐に怒声が響くんじゃないかと思っていたのに…… 私の目の前にはまるで王子様がお姫様を抱きかかえているようなそんな場面が繰り広げられていた。 まさか忍人さんが那岐をお姫様抱っこする所を見てしまう事になるとは露ほどにも思わなかった。 どういう事！？ 私の時は散々お説教だったのに、何この違い！？ 忍人さんは那岐をなるべく起こさないよう気を使いながら歩き出す。 呆然とその様子を突っ立ったまま見ていた私だが、はっとして慌てて追いかける。 その瞬間、見てはならないものを見てしまったような気がした。 その腕に抱きかかえる那岐の額に忍人さんが軽く口づけを落としたような、そんな姿が見えたのは果たして見間違いだろうか？ 忍人さんと那岐って… 忍人さんと那岐って… 忍人さんと那岐って… 一体どういう関係！？ Fin. 以前ブログに投下したSS。 この土属性２人が大好きです。