恐怖の定期試験
「ふふっ。今回はどうやったら生徒の意表をつけるでしょうね?」
職員室で。
とある教師がにこにこと笑顔を浮かべながら。
テスト問題を作っていた。
「……那岐は……今回はどの程度俺の問題をクリア出来るでしょうか?楽しみですね」
近くに他の教師がいない事をいい事に、そんな事を呟く。
この学校で日本史の授業を担当している風早である。
職員室での仕事を終えて、風早は帰る支度を済ませると、まだ教室に生徒が残っていないかを見回っていた。
主な目的は……
同じ家でいとことして暮らしている千尋と那岐がまだ学校に残っていないかを確かめるため。
二人のクラスである教室を覗いてみる。
するとテスト期間になるとよく見かけるようになった光景がそこにはあった。
千尋と那岐が机を並べて二人で試験勉強に励んでいるようだ。
その光景を教室の入り口から穏やかに見守るように見つめた。
何だかんだ言って那岐も千尋の面倒をよく見ている。
そんな那岐の面倒見のよさに笑みを浮かべながら。
静かに教室の中へと入って行った。
「葦原さん」
一応学校内では教師として二人と接しなければいけない。
名字の方で呼びかける。
まあ形だけであり、その後の態度はいとことしての接し方になってしまうようだが。
「二人ともこんな時間まで勉強ですか?感心ですね」
「うん。今回のテストは範囲も広いし、難しそうだから……」
「……僕にとって一番厄介なのはあんたが作る問題だけどね」
「ふふっ、そうですね。どうやったら生徒の意表がつけるか悩みどころです」
「あんたって悪趣味だよね。絶対楽しんでるだろ?」
那岐が冷たい目で風早を見つめる。
そんな視線を笑顔で受け止めながら意味深な視線を送る風早。
実はこの二人の間でだけ、定期試験の際に決められていた事があったのだ。
風早は授業でテスト問題に出題する場所のヒントを与える事。
那岐は授業をしっかり聞いてそのヒントを聞き逃さない事。
そして行われるテストで満点を取る事。
それが二人の間で交わされた約束事。
もしも那岐が満点を取れなかった時には……
風早による特別授業が行われるという事だった。
ちなみに風早の言う特別授業とは教師と生徒との間ではとても許される行為ではなく、如何わしい淫らな行為を行う授業のようで。
那岐としては絶対に回避したいものであった。
だからこの決まり事が出来てしまって以来。
ほぼ風早によって強制的に決定されてしまった事であるが。
テスト期間になると那岐は必死だった。
今までもそう成績は悪くなかったけれど。
風早の担当する教科だけ突然成績を上げた那岐は千尋からも不思議な目で見られるようになった。
「那岐って最近歴史の授業だけはものすごく真面目だよね。どうしちゃったの?」
そんな疑問を持たれてしまっていたが、本当の事など言えるはずもなく、ただただ言葉を濁して返すばかりだった。
「いやぁ……前回は那岐に満点を取られてしまいましたからね。次はどうしようか悩ましいです」
風早は嬉しそうなような残念そうなような複雑な表情でそう漏らした。
「あんた本当に性格悪いよね……」
那岐が嫌そうに目を細めながら吐き捨てる。
**********
そして定期試験が行われ……
やがて答案が返される。
歴史の授業のテスト以外は興味なさ気に那岐はその返された答案を見つめていた。
次に帰って来るのは日本史のテスト。
ごくりと唾を飲み込み緊張した面持ちで答案を生徒に返している風早を見つめた。
風早の表情を覗き見ると。
ものすごく上機嫌だった。
那岐の脳裏に嫌な予感が走る。
「葦原さん」
そう呼ばれてびくりとする。
呼び声が今までの他の生徒の時よりも嬉々としていて。
冷や汗が流れた。
手渡されたテストの答案をひったくるように受け取ると真っ先に点数を見た。
「……なっ!?」
その点数を見た瞬間。
那岐は固まった。
答案には100点という数字……
はなかった。
間違えた問題を確認してみれば。
そこには三角が記されていて。
ただのちょっとしたミスで一点引かれているようだった。
それにより合計点が99となっている。
いっそ完全なる間違いであったなら諦めるしかないと思ったが。
これは正直悲しい。
決してわからない問題ではなかっただけに相当悔しい。
風早がすれ違いざまに小さく囁くように言う。
「というわけで放課後。楽しみにしていて下さいね」
那岐の背中に悪寒が走る。
確かに満点を取れなかったらと脅されてはいたが……
一応教師と生徒であるし、学校という場所で淫らな行為を行おうとする風早の神経を疑ってしまう。
本気なのか?
那岐が風早を恐る恐る見つめた。
風早の満面の笑みが恐い。
放課後。
一体何をされるのだろうか?
那岐はその日一日。
怯えて過ごす事となってしまった。
この日の放課後。
那岐がどうなったのかは、風早以外誰も知らない。
Fin.
「定期試験」をテーマに書いた拍手お礼SS。
以前書いた拍手SS「特別授業」の続き。
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