秘めた想い




「ねえ。オレが何で女性を見ると誰にでも口説き文句言うのか知ってる?」

突然質問された弁慶が「はい?」っと意味がわからないといった感じでヒノエを見た。

「そんなの……君が女好きで節操がないからでしょう……」

溜息を大きく吐きながら呆れていた。

「まったく……小さい頃は一途で可愛かったんですけどねえ……」

そう言って弁慶が昔を思い出すように呟いた。
それを聞いたヒノエがぷうっとふくれて吐き捨てる。

「あんたは本当に何もわかってないんだな!オレはもうあの頃とは違うんだよ!いつまでも子どもだと思うなよな!」

そのままずかずかと去っていくヒノエの後姿を見つめながら、「やはりまだ子どもですねぇ……」とぽろり。

「しかし……何をそんなに怒る事があるんでしょうね……」

弁慶はヒノエの気持ちなど知らないのでわけがわからなかった。
そのままヒノエの去った方を見つめ首を傾げる。

一方ヒノエは弁慶の元を去った後しばらくご機嫌斜めで歩いていた。

「……あんたの気を引くためだって……何でわかんないかなぁ……いつまで経ってもオレは餓鬼にしか思われてないのかよ……」

今度はヒノエが大きく溜息を吐いた。





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「今の時期、紅葉が綺麗だね。よかったら一緒に見に行かないかい姫君?」

オレは望美に囁きかけるように誘った。





本当はオレの想い人は望美ではなく他にいるのだがその想いは誰にも打ち明けた事はないし打ち明けるべき機会は今ではないとも思っているので今の所は必死に隠しているのだ。
いつかは本当に好きな奴を誘えるようになりたいが今は仕方がない。

女の子を見てすぐ口説くのはただの遊びだ。
最初は好きな奴の気を引きたくてやっていた事なのだが、今ではオレがいかにあいつが好きなのかをオレ自身に分からせてくれる行為になっている。
どんなに可愛い姫君に囁きかけてもどんなに美人な姫君に愛の言の葉を送ろうとも決して満たされないんだ。本気になんてなれない。
オレを満足させてくれるのはこの世でただ一人……あいつしかいないんだから。

あいつが熊野を離れてからもずっと想い続けていたんだ。いつか絶対掻っ攫ってでもオレのものにしてやろうと心に決めている。
なかなか会う機会がなくてどうしようかと策を練っていたのだがまさか神子を守る八葉とは……
はじめは熊野の事もあって厄介な事になったと思ったが、あいつとオレを結ぶ絶好の機会と考えれば八葉に選ばれた事も悪くない。
姫君との……あいつとの旅は魅力的だからね。

とりあえず旅の間、オレは女好きを演じて神子姫様にちょっかいを出し甘い言葉を並べる。今は男に恋してるなんて知られたくないからね。



「紅葉かぁ……いいね。行こう、みんなで」

目の前で笑顔を浮かべオレを見つめる望美の姿を見ながら物思いにふけってしまったオレに明るい声で先ほどの問いの返事が返ってくる。

2人きりでのつもりで誘ったのだが……この返事とは……

「よし。じゃあ私九郎さんや景時さん達誘ってくるからヒノエくんは弁慶さん誘ってきてね」
「ふふっ……わかっててかわしているのかい?だとしたら侮れないね」
「え?何の事?」
「……いや、何でもないよ」

神子姫様は時々聡いからね……まさかオレの本当の気持ちに気づいてる……なんて事ないよな……?
弁慶も他の事には聡いが自分の事にはものすごい鈍感な奴だからな……本人よりも神子姫様にばれないようにする方が実は大変なのかもしれない……





Fin.





なんとなく何か書こうと思って適当にPCで打ってアップした短い小説です……
こんな駄文で申し訳ないです……