※高杉さんがやらかしているのでご注意。しかも無理矢理。
15禁くらいでお願いします…
いとせめて恋しき時は狂気に落つ
「高杉。お前は変わったな」
「何がだ?」
「以前は私でも手がつけられぬ程の過激攘夷派だっただろう?」
「…………」
「それが今では……」
久方ぶりに故郷の長州へと戻り、桂と再会した高杉は。
桂に誘われて河原宿の料亭で共に酒を飲み交わしていた。
積もる話もあり、昔話から今後の活動についてまで一通り話し終えた後。
そんな事を言われ、高杉が心外だと言わんばかりに眉根を寄せる。
「俺は今でも攘夷派のはずだが?」
そう吐き捨てて、杯に残っている酒を一気に煽った。
「それはわかっている。私が言いたいのはそういう事ではなくてだな」
桂も酒を口に含み。
苦笑を浮かべながら部屋の外へと視線を動かして。
夜空に浮かぶ美しい月を見上げる。
「以前に比べると無茶苦茶な行動が減ったというか……随分大人しくなったというか……もちろん今も暴れ回っている事に変わりはないだろうが……」
どう言い現わせばよいものか、しっくり来る表現が思いつかず。
桂は言い淀む。
「どこか纏う気が柔らかくなったというか……」
そこまで言われて高杉は思いっきり嫌な顔をした。
じろりと鋭い視線が桂に向けられる。
酒の所為か少々据わった目が恐い。
それでも桂はまだ何か言葉を探すように月の光を見つめていた。
「……あれ程異人を徹底的に排除しようとしていたお前が、異国の力を借りると決めた時は驚いた」
「この国のためには必要だと思ったからだ。俺は別に攘夷思想を捨てたわけではないぞ」
この国を他の列強国から守るためには。
今の日本の力だけでは足りない。
幕府のやり方ではいずれこの国は……
「俺は、攘夷をなすために異国の力を使うのだ」
目的のために利用出来るものは利用する。
それだけの事。
「本当にそれだけか?」
「何?」
桂は月を見上げたまま、目を細める。
夜の闇を優しく照らすその光。
それはまるで……
高杉の纏う漆黒の闇に光を注ぐ誰かのようだ。
桂はその金色の髪と月を重ねるように思い浮かべてじっと夜の空の光を眺めた。
桂は高杉の事を昔からよく知っている。
だから高杉が狂ったように過激な言葉を吐いたり、無茶な行動をするのもこの国を動かすため。
ただ狂気を演じ、人々を惹きつける存在であろうとしているだけなのだと理解していた。
本当の高杉は生真面目で……優しい男だ。
それを周りに隠し続け、長州勢を率いて戦って来たのである。
故に彼が纏う気は冷たく、寂しく、孤独で、闇そのものだった。
そんな凍てついた暗い闇の氷を溶かす光が一筋差し込んで来たようだと。
けれど。
おそらくその光は一時の安らぎでしかないだろうとも思っていた。
想いが深くなればなる程に、やがて深い傷を負うだろうと。
「私は異国の力を借りる事に異論はないが……」
友人として告げてよいものか悩み。
少々歯切れの悪い言葉を紡ぐ。
「異人に想いを寄せる事には反対だ」
高杉は双眸を大きく開いて隣に座る桂を見た。
何を言い出すのだと。
「馬鹿な!一体誰の事を言っている?」
「隠しているつもりか?長い付き合いだ。それくらいお前を見ていればわかる」
「……っ!?はっ、何をふざけた事を……」
高杉は桂の言葉を鼻で笑い否定する。
高杉とアーネストが共にいる所を見た時間はそれ程長くはないだろうに何がわかるのだと。
しかしどこか目が泳いでいて動揺しているのが見て取れた。
高杉が慌てふためく姿を見る事はあまりないので少しばかり苦笑しつつも。
寂しい表情を浮かべ。
「私の勘違いならばそれでいい。異人に恋をした所で相手になどされぬだろうからな」
どうせ望んでも手に入らん。
ただの高望みだ。
傷つくのはお前だと言わんばかりに小さくため息をついた。
その言葉が高杉の胸の中に静かに、冷たく落ちる。
それはとても鋭い痛みを伴うものだった。
まるで抜き身の刀で貫かれたかのようで息苦しくなる。
高杉には自覚があった。
己の心の変化に。
最初は排除すべき存在だと思っていた相手。
容赦なく命を奪おうとしたその男。
だというのに。
異国の力が必要だと感じ、その力を求めた高杉はやがて知る。
殺そうとしていたその異人が本当にこの国を案じて心を砕いている事を。
口では本音を言わない。
けれど彼が日本という国を愛している事を理解した。
異国の人間だというのに純粋にこの国を心配していると。
それを知った時から芽生えたのは興味。
もっと知りたいと願い、知れば知る程に高杉の心を惹く。
やがてそれは特別な感情となり。
「恋……か……」
ふっと自嘲気味に笑みを浮かべ、空になった杯に並々と酒をついではまた一気に煽る。
「……高杉。……やはりお前はあの異人に……」
桂は確信しているのだろう。
どんなに否定しようとも高杉がアーネストという男に惚れているという事を。
それが今の所一方的な想いである事も。
しかしどんな言葉を言ったとしても、人の心など簡単には動かせない事も知っているのだ。
特に“恋”という名の病はやっかいで。
感情を消し去ろうとした所で上手く消えてくれるものでもないのだと。
だから桂はそれ以上強く咎めるつもりもなかった。
少し前、過激な攘夷派として異人を排除していた時期だったらもっと違っただろうが。
今異国の力を頼ろうとしている立場としては。
異国の者と親しい関係になるのはある意味で都合がよいのかもしれない。
そんな考えもあった。
ただ長州は元々攘夷思想が強いため、すぐには受け入れられぬ者もいるだろう。
長州勢を率いる立場にいる高杉が異人に恋をしているなどと知れれば厄介な事になりかねない。
それ程に厳しい相手を好きになってしまったのだ。
高杉は。
桂も苦笑を浮かべては酒を煽り出す。
酔いたい気分だったのだろう。
お互い普段以上に杯が進んだ。
「俺は、だな……。端から…諦めるのは、性に合わん……」
「何だ……やはり、好き…なのではないか」
「う、煩い……俺は……恋であっても……狂気を貫く……」
「……は?おい……高杉?……酔って…いるのか……?」
「そういう…お前、こそ……」
徐々に呂律が回らなくなって来てもまだ足りないとばかりに。
酒を口に含みながら。
段々意識が朦朧としてくる。
やがて身体が熱くなってくると無性に恋しくなり。
高杉はアーネストの姿を思い浮かべては彼を求めるように言葉を零した。
今すぐにその姿を見たい。
酔っぱらった頭で感情のままに立ち上がる。
「ん?……ど…うした?」
「…………」
桂に尋ねられても無言でその場を立ち去り。
ふらつく足で歩き出した。
目指すは河原宿で寝泊まりしているはずの一行がいる部屋。
幸い桂と飲み交わしていた場所から近い。
酔っぱらった身でありながら何とか辿り着く。
辺りは暗くて殆ど何も見えず。
いくつかの部屋から薄明かりが漏れる程度だった。
アーネストがいる部屋はどこかと。
時折壁に激突しながらも探っていると、とある一室の襖が開き。
「……高杉さん?」
そこから探し人が顔を出した。
高杉にとってはこの上なく運がよかったのかもしれない。
しかしアーネストにとってはその逆で。
この時、高杉の来訪に気づいたのが他の人間であればどんなによかった事か。
もしくは同室者がいればこの後の出来事は起こらなかったかもしれない。
たまたま今日は部屋に余裕があり一人だった。
「サ…トウ…殿……」
逢いたかった人物が視界に入り微笑む高杉。
その笑みは普段厳しい顔つきで傲然とした態度の高杉からは考えられない程。
甘い笑み。
酔っているせいもあってとろんとした目が揺れている。
部屋の中の明りで僅かに見える程度であったが。
見慣れぬ高杉の笑みにアーネストは呆然とした。
しかし高杉は誰の目から見ても一目で酔っぱらっているとわかる程べろべろで。
頼りない足元を見て慌てて駆け寄ると。
アーネストは高杉に肩を貸しその身を支えた。
距離が近づいた瞬間。
漂う酒のにおい。
「うっ……高杉さん、お酒くさいです……」
どれだけ飲んだのだ?と顔を顰める。
ふらふらで一人で歩くには頼りない。
高杉は己に対してもとても厳しい人間で、こういった事には節度を持って自制する人だと思っていたので驚いていた。
プライドの高そうな人だと思っていたし、このような醜態は他人に見せたくないはずだと。
高杉がここまで酔っぱらう程酒を飲むなど。
きっと余程の事があったに違いないと心配になり。
「大丈夫ですか?一体何があったのです?」
つい口にしてしまった。
気遣いの言葉。
「……何か悩み事でも?」
酔って顔を真っ赤にした高杉の顔を心配そうに覗き込む。
その距離は普段ならありえない程近い。
肩を組んで支える手が高杉の背に感じられ。
密着した身体が熱を持って疼く。
酒を飲んだせいで全身が火照っていたから余計に熱く、欲望を掻き立てられていた。
素面であれば抑えられたかもしれない欲望が止めどなく溢れる。
酔っている高杉に抑制は利かなかったようだ。
そのまま勢いよく。
その身を押し倒す。
どうやら寝る支度はしてあったようで部屋には布団が敷かれていた。
その布団の上にどさりとアーネストの身を横たえさせたのである。
「た、高杉さん!?」
アーネストは何が起こったのかわからずにその名を呼んだ。
酔い潰れて己に凭れかかって来たのかと思ったのかもしれない。
しかしそうではない事は次の高杉の行動ではっきりする。
「俺は……欲しいものは、力ずくでも手に入れる」
何の脈絡もなく告げた後。
アーネストの服の釦に手をかけ、ゆっくりと一つずつ外してゆく。
もう寝る支度をしていたためか上着は着ておらず、タイも手袋も外されていてかなり身軽な格好をしていた。
高杉にとっては脱がせやすく都合がいい。
「何をするのですか!?」
焦ったアーネストが制止の意味を込め、その手を掴んで睨みつけた。
だが高杉には効果がない。
高杉は枕元に綺麗に置かれていたアーネストのタイを勝手に手に取ると。
抵抗する腕にそれをきつく巻きつけ縛り上げた。
手の自由を奪われたアーネストはさっと青ざめる。
酔った高杉は普段の克己心を忘れたかのように。
ただ己の欲を吐き出そうとそれだけだった。
「俺は、お前が……欲しい……」
「What!?」
少しずつ肌が露わになると貪るように口づけを落とされる。
「〜〜〜っ!?や……、止めて下さい!」
ぬるりと這う男の舌に鳥肌が立つ。
必死で逃れようともがいたが。
高杉は力で押さえつけ逃げる事を許しはしなかった。
まるで獲物を捕らえて食らう獣のようでアーネストは恐怖する。
高杉は一体何をしているのか?
考えるだけで背筋が凍った。
混乱して異国の言葉で喚き散らすアーネストだったが。
もちろん高杉には通じない。
たとえ日本語で言った所で我を忘れた高杉には届かないだろうが。
誰かに声を聞かれてしまわないよう。
理解出来ない言葉たちを呑み込むように。
高杉はその口を己の口で塞ぐ。
酒の香りと味が残る口内。
いきなり舌まで侵入させられてくらくらとしてしまう。
抵抗も空しく舌が絡められ、激しい口づけに。
アーネストの方まで酔わされたように意識が朦朧とし出した。
嫌だと首を振っても逃してはもらえず。
足をじたばたさせていたが悉く高杉に押さえつけられてしまう。
長く激しい酒のにおいと味がする口づけに、やがて息が苦しくなり抵抗する力も奪われてゆく。
次第に大人しくなってゆくアーネスト。
それをいい事に高杉は本能のままに食らい尽す。
今まで男相手にこういった行為をした事がない高杉はこれが初めての事だった。
知識だけ何となく持ち合わせているだけで。
酔っぱらった勢いと欲望のままにどうしても乱暴な抱き方をしてしまう。
アーネストは飛びそうな意識の中、高杉から与えられる口づけの合間、悲鳴に近い声を漏らしていた。
だが何とか声を抑えようと努力しているようでもあった。
こんな姿を他の者に見られたくはないと思ったのだろう。
耐えるその姿はかなり辛そうだ。
それでも高杉はそれに気づく事すら出来ず、行為は激しくなるばかり。
ついにはその身を貫かれ、無理やり繋げられてしまい。
耐え切れない痛みにアーネストの瞳からぽろぽろと涙が零れていった。
何が何だかわからぬまま。
酒のにおいと卑猥な水音が辺りを支配していて。
無遠慮に吐き出された欲にとうとうアーネストの意識は飛んでしまう。
高杉もまた一通り行為を終えるとそのまま酔い潰れ。
深い眠りに落ちる。
―――そして翌日。
高杉は頭の痛みに眉を寄せながら目を開ける。
まず飛び込んで来たのは金色の髪。
はっとして目を見開く。
いつの間に服を脱いだのか高杉は真っ裸だ。
そんな己の腕の中に抱くのは……
一糸まとわぬアーネストの身体。
よく見れば真っ白い肌に無数の赤い跡が散りばめられている。
それが己のしでかした事だと悟るとさっと血の気が引く。
更にとどめと言わんばかりに。
まだ互いが繋がれたままの状態である事に気づいて慌てた。
「……っ俺は……」
心臓の音が煩いくらいに鳴り響いて。
ゆっくりアーネストの中にいる己を引き抜くと、彼の口から色を含む吐息が漏れる。
それにうっかり欲情しそうになりつつも、現実に意識を向けた高杉は。
痛む頭を抱えながら起き上り部屋を見渡した。
昨夜の事は正直途中からあまり記憶がなかった。
桂と酒を飲み交わしそして……
名は口に出さなかったがアーネストの事を話していた事だけは覚えている。
桂に言われた言葉に柄にもなく落ち込み、酒に逃げた。
そんな流れだった気がする。
まさか記憶を失う程のやけ酒を食らうなど。
何たる体たらくだ。
いくら後悔した所でやってしまった事を取り消す事は出来ない。
とにかく今出来る事。
まず仲間に見られぬ内に身を整える事くらいだろうか。
そう考え己の身を整えて、アーネストの手の拘束を解いてやる。
そして静かに水を汲みに行く。
それから手ぬぐいを濡らし、絞るとそれで横たわるアーネストの身体を丁寧に拭いてやった。
もちろん彼の身を汚してしまったのは高杉自身だ。
その事実を重く受け止める。
一通り身体を拭くと涙の痕が残る頬に目が行った。
あまり記憶がないとはいえ。
夢のように朧げな残像は所々思い出せる。
高杉がアーネストを強く求めていても。
アーネストは涙を流してひたすら拒んだ。
それが現実。
再び胸に痛みが走る。
それでも。
そっと涙の痕に口づけを落とした。
するとアーネストがまつ毛を揺らして僅かに声を漏らす。
やがて重そうな瞼を開き、宝石のような翠の瞳を覗かせた。
「…っ……」
「あ……」
思いっきり間近で視線が交わり。
二人は同時に息を呑む。
沈黙が流れたのがどれくらいだったのか。
わからなくなる程身が硬くなる。
だが開いた瞳から。
再び涙が零れると。
高杉は申し訳なさそうにその手を伸ばした。
涙が流れる頬に触れようとした瞬間、アーネストはびくりと肩を揺らし。
「Keep your hands off me!」
私に触らないでと震える声で叫んだ。
意味はわからなくとも拒絶する雰囲気は伝わったのかぴたりと手が止まる。
「す、すまない……」
怯えるアーネストにかけてやれる言葉がそれしか見つからず。
それだけ呟く高杉に。
「You’re hideous……」
振り絞るように最低だと告げて、アーネストは身を起こそうとした。
しかし。
「……え?」
鉛のように重たい身体と下半身に走る痛み。
とても起き上がれない状態だったのである。
ほんの僅かに身を起こした後。
再び身体を布団へと横たえて蹲った。
「おい、大丈夫か!?」
高杉が心配そうにまた手を伸ばす。
酔っぱらっていたとはいえ、取り返しのつかない事をした自覚はある。
アーネストが怒るのも当然で、それは決して許されない事だ。
せめて謝罪を。
そう思ってその身に触れる。
次の瞬間アーネストは高杉の手を払い、服をまとわぬ身体を布団に包んで隠した。
「You pervert!」
異国の言葉で拒絶され。
その叫び声が宿内に響き渡ったようで。
何やら揉めているらしい声に目を覚ました隣室のゆきが部屋から出て来て。
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げながら二人のいる部屋の襖を開く。
まずいと思った高杉は慌てて、開かれる襖を途中で止める。
どこか挙動不審な高杉に、何があったのだろうかと。
僅かな隙間から部屋の中を覗こうとするのを高杉が己の身体で遮るように身を捻った。
おかげでゆきには部屋の中の様子がよく見えなかった。
「何でもない」
「そうなの?でも……今“変態”って聞こえた気が……」
「…………」
思わぬ所でアーネストが叫んだ言葉の意味を理解する高杉は言葉を詰まらせ息を吐く。
「あれ?そういえばどうして高杉さんはここにいるんですか?」
「いや……たまたま昨日は近くまで来ていて……夜遅くなったのでここに泊まる事にしたのだ」
「そうだったんですか」
「……ああ、だがその……サトウ殿はどうやら体調を崩してしまったらしい」
「え?大変!瞬兄を呼んできますね」
「ま、待て!その必要はない」
「どうしてですか?」
「……あまり騒がれたくないそうだ。俺が看病するから問題ない」
「でも……」
「いいから戻れ。あまり弱っている姿を女に見られるのは嫌だろう」
「そう……なんですか?」
なかなか納得しないゆきを必死で説き伏せ。
何とか追い返す。
ゆきはとりあえず去って行ったが瞬を呼ばれたらと思うと気が気ではなかった。
また誰が様子を見に来るかわかったものではない。
高杉はとにかく布団に包まっているアーネストを説得しながらも無理矢理引き摺り出すと。
何とか服を着せて身を整えた。
ちょうどその時。
部屋に足音が近づいて来て。
高杉がどきりとする。
嫌な予感がして冷や汗をかく。
「アーネスト。具合が悪いと聞いた。診させてもらうぞ」
やはりゆきは瞬に話してしまったらしい。
流石に瞬は簡単に騙せないだろう。
まずいなと思ったが、すぐに襖が開かれ、瞬が了承も得ないまま部屋に入り込んで来た。
「必要ないと言ったはずだが?」
「それを判断するのはお前ではない」
瞬は医者でない者が勝手に判断するなと言いたげに高杉を見る。
そしてアーネストが蹲る布団に手をかけた。
「…………」
かけ布団をめくりアーネストの身体を見た瞬間。
瞬は絶句する。
服は着せてあった。
だがそれでも隠せない情事の跡が首回りにいくつか見えて。
潤んだ瞳に色を含む吐息。
何があったのかを察してしまったのだ。
思わず高杉を見遣るとばつが悪そうに視線を逸らされ。
瞬は一層鋭く睨みつけるように彼を見た。
「これはどういう事だ?」
言い逃れは出来そうにない。
瞬は冷たく言い放つ。
「……無理矢理……襲ったのか?」
その言葉に頷く事はしたくなかったが。
否定出来ない高杉は黙り込む事しか出来なかった。
それを瞬は肯定と取ったのだろう。
高杉からアーネストの身を隠すように布団をかけてやると立ち上がり。
高杉を部屋から追い出した。
「看病は俺がする。お前は早くここから去れ。新選組がいる宿にお前が長居するのは危険だろう」
瞬が高杉に対して何を思ったかはわからないが。
八葉としての務めに支障が出るような真似をした高杉に対して怒っている事は確かだった。
瞬に追い出された後も。
アーネストの事が気がかりでその場を離れられず。
しばらく部屋の前の廊下に突っ立っていた。
だが他の者も次第に起きて活動を始める時間帯になると、新選組に出くわす可能性もあり。
仕方なく河原宿から去る高杉。
まだ二日酔いで頭はがんがんと痛んだが。
それよりも。
胸の痛みの方が大きく。
ずしりと圧し掛かる。
「まったく……酔っ払いと恋する男は救い難いものだな……」
一人。
故郷の町中を歩きながら高杉は呟く。
次に会う時はどんな顔で会えばよいものかと考えながら。
「……恋にも、狂気が必要……なのかもしれん……」
酔って行きすぎた行動をした事は認めていた。
悪い事をした自覚もある。
反省すべき点はあるだろう。
きちんとアーネストには謝罪するつもりだ。
しかし高杉はこうも考えていた。
これはただのきっかけにすぎないと。
一度手を出してしまった以上。
引き返せない。
どんな手段を使ってでも手に入れるべきだと。
今は嫌われていたとしても出会いを考えれば当然だ。
それをどう覆すか。
高杉にとっては恋も戦と同じ。
駆け引きのようなものだった。
焦がれた相手が相手なだけあって一筋縄ではいかないのだから。
簡単ではないだろうけれど。
「俺は……必ず手に入れてみせる」
どのような手段を使ってでも―――
言霊になるよう口にした決意。
朝日が眩しく照らす中。
その言葉は太陽の光に溶け込んでゆく。
大言壮語を吐くつもりはない。
有言実行だ。
高杉は恋においても狂気を演じる覚悟で拳を握ったのだった。
Fin.
高杉さんがやらかしました。
ごめんなさい。
まさかの展開…
うちのサイトでここまでやらかしたのは多分高杉さんが初めてです(汗)
今まではやらかしてても濁す感じだったので…
高杉さんは亭主関白で…優しい人なんだけれどすべての決定権を握ってる感じ。
|