La vigilia di Natale





「ねえ、今度の日曜日空いてる?」
「はい!もちろんです!」

オレの問いにきっぱり答えが返って来る。
いつもの明るく元気な声。

「じゃあ明日の放課後は時間ある?」
「はい!10代目のためなら時間は惜しみません!」

余程の事がない限り否定の言葉はない。
返って来るのは毎回快い承諾の返事ばかり。

「24日は?よかったら一日空けておいてほしいんだけど……」
「……に、24日ですか?……は、はい……大丈夫です」

あれ?
今ちょっとだけ躊躇った?
何か用事でもあったんだろうか?
それでも結局了承の言葉を返す獄寺君。

ねえ、本当に嫌じゃない?
無理してるんじゃないの?

オレの方から告白して付き合い始めたけど……
獄寺君の態度は前からずっと変わらない。

オレの事を何よりも優先してくれるのは嬉しいけどさ。
それって本当に恋人としてオレの事を大事に想ってくれてるって事なのかな?

オレの役に立つ事が生きがいみたいな獄寺君だけど……
それは単にオレの事、ボンゴレのボスとして見てるだけなんじゃ……?
ただ獄寺君はボスの右腕としてそばにありたいだけなんじゃ……?

他のみんなに対してはつっぱってばかりできつい態度を取る獄寺君がオレにだけはすごく素直でまるで主に懐く犬のように忠実で。
オレだけの特権だと嬉しく思う反面不安になる。

それは本当にオレだから見せてくれる顔なの?
オレがボンゴレの10代目じゃなく、普通の中学生だったら獄寺君はオレになんて見向きもしないんじゃないかって考えてしまう。

実際リボーンと出会わず、ボンゴレとなんて関わらなければ獄寺君とこんなに仲良く話をする事もなかっただろうし。

オレは今、本当に獄寺君の恋人なんだろうか?
自信を持ってはっきり言えない。
獄寺君がオレの事を好きでいてくれてるのかどうか……



************



待ち合わせの時間から10分が過ぎた。
その時はまだ、大して気にしなかったけど。
いつもはオレの方が待たせちゃう事が多いだけにしばらくしてから不安になってくる。

どうしたんだろう?
またどこかで不良に絡まれてたりしてるんじゃないかと心配になった。

賑やかな商店街。
見慣れた町だけど、きらきらのオーナメントが飾られて彩を増した風景が心を躍らせる。
クリスマス・イヴという事もあってかカップルで歩く人たちがやけに多い。

仲良さ気に腕を組んで歩く男女を見ると羨ましくなってつい獄寺君と腕を組んで歩く己の姿を思い浮かべてしまうけれど、途中で恥ずかしくなって頭を振る。
獄寺君はオレが腕を組みたいって言ったら拒絶なんてしないだろうけど。
獄寺君の本心はどうなんだろうって考えちゃう。

「10代目!」

オレが俯いて考え込んでいたら呼びかけられた。
走って息を切らせながらこちらへ向かって来る姿を見て少し安心する。
よかった、厄介事に巻き込まれていたわけではなさそうだと。

「すみません遅れてしまって!本当にすみません!」

もうそれはそれは申し訳なさそうに頭を何度も下げて来る。
いつもと同じ獄寺君。
ここが町中だろうと関係なく土下座までしそうな勢いだ。

「い、いいよ。いつもはオレが待たせちゃう事多いし……そんなに気にしないでよ」
「いえ、10代目をお待たせするなんて右腕失格です!本当に申し訳ありませんでした!」

ほら、また出た。
“右腕失格”
オレは別に獄寺君の事、そんな風に見ているわけじゃないのに。

「ねえ、本当に今日大丈夫だった?やっぱり何か用事があったんじゃ……?」

遅れて来たのもそれが原因なんじゃ……
無理して一日空けたんじゃないのかなって思ってしまう。

「いえ、大丈夫です!ちょっと支度に戸惑ってしまっていただけなので……」
「本当に?」
「はい、10代目以上に大事な用なんてありません!」
「…………」

“10代目”
……やっぱりオレが“10代目”だから無理するのかな?

恋人のオレじゃなく、ボスとしてのオレが何より大事って事?

「今日空いてる?って聞いた時、躊躇ってたよね?」
「え?」
「オレは獄寺君と少しでも一緒にいたいから一緒にいられる時間が多いと嬉しい。だけど、用事があるならちゃんと言ってくれた方がいい。オレ、獄寺君に無理してほしいわけじゃないから」

そう言って視線を逸らす。
嫌なら嫌だって言って。
そんな風に思いながら。
まるで拗ねたような態度だったかもしれない。

「……あ、あの時は……そういう理由で躊躇ったわけではないです……!」

機嫌悪そうなオレを見て獄寺君が慌てた。

「ただ今日がクリスマス・イヴで特別な日だったから……」

意外な言葉がその口から飛び出て思わず逸らした視線を戻す。
日本人の黒々とした瞳とは違って、町を彩るオーナメントの一部みたいな翡翠の瞳が揺れている。

「特別な日に誘って貰えて、一緒に過ごせるんだと思ったら嬉しくなってつい……」
「え?」
「恋人にとって大事な日だと思ったから……だからいつもと同じような格好じゃ失礼なんじゃないかとか、何か特別な物を持って行った方がいいんじゃないかとか……色々考えてたら時間がかかってしまって……それで……」
「それってオレと一緒にクリスマスを過ごす事が特別だって思ってくれたって事?」
「当然じゃないですか。だってオレたちは……こ、恋人……なんですよね?……その……おこがましい事かもしれませんが……」

獄寺君がオレを慕ってくれるのはオレがボンゴレの10代目だから。
それは確かだと思う。
でも……
付き合い始めてから変わった事もちゃんとあるんだ。

恋人にとって特別なイベントをちゃんと意識してくれているんだと思うと自然と笑みが零れる。
ああ、オレは獄寺君の恋人なんだ。
それが嬉しい。

「オレだって10代目と一緒にいられる時間が好きです。だから出来るだけ一緒にいたいって思うから……10代目の誘いを断らないのはオレが一緒にいたいって思ってるからで無理なんてしてないです」

獄寺君って本当に純粋な目でオレを見るよね。
他の人には敵意を剥き出してすごく恐い目つきで睨むのに。
それが10代目としてのオレに対する態度だった。
だけど、恋人として付き合うようになってから時々違う顔をする。
恥ずかしそうに照れたような視線を宙に彷徨わせて。
ほんのり赤く染まる頬。

確かにオレたちの関係は少しずつ変化しているんだ。

だから焦らなくてもいいのかもしれない。
獄寺君がオレだけに見せてくれる顔がどんどん増えていく。
今までと違う一面が少しずつ現れて。
それを見るのがとても幸せだから。





Fin.





「クリスマス」をテーマに書いた拍手お礼SS。
題名はイタリア語で「クリスマス・イヴ」