限られた逢瀬







―――――まだ夢の中―――――



オレの頭を優しく撫でる温かい手。

逆光でその人の顔がよく見えない。
けど何故か心地よい感触。

きっとその人の愛情が頭を撫でる手から伝わってくるからだ。

子ども扱いされてるみたいだが決して嫌じゃないと思えるのは何でなんだろうな。

目の前の人物に母親の影が重なった。





**********





「クフフ」
「!?!?!?」
「おはようございます」
「!?!?!?」



ちょっと待て!

何だこれ!?

オレは昨日確かにいつも通り自分の家に帰ってきて普通に寝室で眠りについたはず……



もちろん一人暮らしのオレの家には他に住人なんていやしないのだから……
オレの寝室に人が入り込むはずはない。



それなのに……

これはどういう事だ!?

気持ちよく寝ていたオレが窓の隙間から差し込む陽の光にゆっくりと覚醒させられて……
そっと目を開けると目の前には人影。

ありえねぇだろ?



「パ、パイナップル!?」



枕元に朝食用の果物を用意していたのかと考えそう漏らしたが……



「骸です」



あっさり否定されてしまった。

つ〜か何でいんだよコイツ!!
おかしいだろ!!



「てめぇどっから湧いてきやがった!?」
「クフフ、僕に不可能はありませんよ」
「ふざけんな!完全に不法侵入の犯罪だっつ〜の!!」
「おやおや、既に罪人である僕には無意味な言葉ですね」
「威張んな!!」



まったく何なんだ!?

コイツ確かまだ牢獄の中なんじゃ……?

クローム髑髏の身体を借りて……?

いやでも何でわざわざこんな所に来る必要が……?



「まさかまた10代目を狙って……?」



慌てて布団の中から飛び起きて身構える。
だがさすがに寝ていたオレには武器などない。

どうする!?



「クフフ。僕の狙いがボンゴレだと?本当にそう思っているのですか?」
「……違うってのか?」
「ボンゴレが狙いならわざわざ君が起きるのを待ってなんかいませんよ」
「じゃあ何が目的だってんだ!?」



何を考えていやがる?
さっぱりわかんねぇ……

だが油断しちゃいけねぇ……

コイツは何か企んでいやがる。
それだけはわかる。



「目的……ですか?」

思案気な面持ちで一歩、オレとの間合いを詰めた。
危険を感じてオレは無意識に一歩さがり、距離をとる。

「知りたいですか?」

また一歩骸が近づく。
オレもそれに合わせて一歩さがろうとした。

が、

しまった―――!!

ここは室内。
しかもオレの寝室。
暴れるにしては広くないその空間。

つまりはオレの後ろは既に壁で……。

逃げ場がねぇ―――!!



焦るオレにはお構いなしに更に骸が一歩、また一歩近づき完全に追い詰められてしまった。



―――やべぇ―――



骸が腕を伸ばしオレの右腕を捕らえた。
振り解いて反撃しなければと思った瞬間もう片方の骸の腕が伸ばされる。



―――ダメだ、やられる―――!!



咄嗟に瞑った両目。

情けないにも程があるだろ。

これじゃ右腕失格だ。



けれど、オレの予想したような事態は何も起きはしなかった。



代わりに訪れたのは夢の中で感じていた温もり。



え―――???



オレの頭を優しく撫でる温かい手。



恐る恐る目を開けてみれば、夢の中での光景が甦る。

夢の中ではよく見る事の出来なかった相手の顔が今ははっきりと見える。

信じられない事にオレの頭を撫でるその手は六道骸のもの。

何の冗談だ!?と思えど奴の表情はとても穏やかで慈しみが込められたものだった。



まさか……
オレがあんな夢を見たのは……

オレの寝ている間にもコイツが……?



とにかく何か言わなければと思い口を開くが、結局何も言葉を発する事が出来ずただ口をぱくぱくする事しか出来ない。



「目的はありませんよ」

オレが無言でいると骸の方から話し始めた。

「ただ……敢えて言うならば……」

骸の声があり得ない程柔らかで。
そっと顔を近づけられても悪意を全く感じる事なく受け入れてしまっていた。

おかげで耳は弱いってのに……
耳元で囁かれちまった。

「君に逢いたかったんです」

瞬間ゾクリと背筋に何かが走って力が抜けた。

「君に逢って、こうして触れたかった」

今もなおオレの頭を撫で続けるその手がふっと離れていく。

「ただそれだけです」

そしてそう言い残すと、骸はその姿を消していった。



残されたのは先程までの骸とのやり取りに呆然としているオレと、骸と入れ替わりにこの場に現れたクロームの2人だった。

そして……



「時間切れ……」



ぽろりとクロームがそう呟いた。




Fin.





以前ブログに投下したSS。
骸獄も好きなんです。